手術当日、東京は雲ひとつない冬晴れでした。私が入院した病院は自宅から直線距離は近いのですが、電車を使うとグルっと遠回りになるのでタクシーで向かいました。「8:30に来てください」と言われていましたが、渋滞もなく8:00過ぎに到着しました。
持ち物は着替えなどですが、持っていって良かったものと、持っていけば良かったものを先にお伝えしておきます。
■本
入院中は暇です。1日1回の診察と2~3回の入浴、そして食事くらいしかやることがないので、本を持っていくことをお勧めします。タブレットやスマホで動画を見るのも良いのですが、相部屋だとどうしても気にしてしまいます。私が持参したのは、川端康成の「伊豆の踊子(新潮文庫)」と「雪国(角川文庫)」です。私は理系なのでこうした作品に触れることがなく、この機会に読んでみようと選択しました。
ただ、内容が難しくて読むのが大変でした。作品を楽しむ予備知識がなかったので、すぐに寝てしまいました。しかし、この睡眠が結構重要で、寝ることも術後ケアでは大切です。寝ている間は痛みを感じませんからね。枕の高さ調整にも役立ちました。夏目漱石の「坊っちゃん(新潮文庫)」や志賀直哉の「暗夜行路(新潮文庫)」など、こうした機会に読んでみてはいかがでしょうか?
■フェイシャルペーパー
何度も脂汗をかきましたし、入浴も2日間できなかったので「フェイシャルペーパー」は役に立ちました。看護婦さんにも加齢臭プンプンでは申し訳ないですからね。
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■携帯ウォシュレット
手術後の排便は痛いうえに、ウォシュレットで患部をきれいに洗浄しなければなりません。しかし、便座についているウォシュレットの「弱」でも痛いので、噴射能力の低い携帯用のウォシュレットがあると最高です。退院後も使える(というか使用頻度は高い)ので、痔瘻患者には必須のアイテムです。中国製の安い携帯ウォシュレットを購入したのですが、すぐに壊れてしまいました。やはり、TOTOのいいヤツを購入しておくことをお勧めします。
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■超やわらかボディタオル
手術後3日目から入浴が可能になります。そこで必要なのが「超やわらかボディタオルです。お尻をきれいに洗わないといけないのですが、一般的なタオルでは痛いです。シャワーも痛いので、超やわらかボディタオルが役立ちます。私は浴槽の中でこのタオルを使って、そっと拭き洗いしていました。入浴は1日3回くらいになるので、2~3枚は購入されておいた方が良いです。
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それでは、本題の手術当日に戻りましょう。
8:30:受付
手術患者だからといって特別な対応もなく、一般の患者さんに混じって8:30の受付まで待ちました。受付を済ませた後、ナースステーションで入院の手続きを行い、看護婦さんに病室を案内してもらいました。2人部屋の窓側を予約したのですが、なんと、富士山が見える部屋でした。お金をケチって4人部屋の通路側とかにしなくて本当に良かったです。入院中に4人部屋の入口に近づくことがあったのですが、ケツの痛いオヤジたちの加齢臭が最悪でした。こんな部屋じゃなくて良かった、と本気で思いました。他人の臭いやイビキ、歯ぎしりなどは最悪です。これから入院される方は、ぜひいい部屋を予約されることをお勧めします。ただでさえ痛くて厳しい状況なので、せめていい部屋を予約してください。
9:30:手術の準備(剃毛、浣腸、着替え)
まずは、心電図と胸部・腹部のレントゲンを撮りました。その後、入院生活の説明を受け、手術着に着替えて点滴をしました。看護婦さんに手術の開始時間を聞いてみると、今日の3番目でお昼くらいとのことでした。あと3時間くらいか・・・、やだなーと思いながらも、手術の準備をします。まずは、おしりの剃毛です。T字カミソリでジョリジョリと思っていたのですが、小さな電動カミソリであっという間に終わりました。続いて、人生初の「浣腸」です。「あはははは、うんこしたくなるんだろうな~」くらいに考えていたら、これが地獄でした。「トイレで5分くらいは出すの我慢してください」と言われたのですが1分ももちません。すぐに排便をしたのですが、めちゃくちゃ気持ち悪くなりました。ゲロを吐きたい感じです。気持ち悪すぎて全身から汗が吹き出し、手すりを持たなければ立ち上がることもできません。激しい車酔いに似ているかもしれません。二度と浣腸はしたくないです。
ちなみに、本来であれば手術前日に入院して、胃カメラや大腸検査などを行うのですが、私の場合は日程的に厳しかったので、無理を言って入院→即手術にしてもらいました。
11:30:待機室に移動
ようようとベッドに戻り横になると、「2人目の方がスタートしたので、待機室に移動します」と呼ばれました。点滴をカラカラと押して、手術室の前にある待機室で順番を待ちます。そこにはテレビがあって、大坂なおみのニュースが流れていました。全豪オープンの準決勝に勝った直後で、少し勇気付けられました。「お待たせしました、それでは行きましょう」。全然待っていないし、行きたくないし。でも行くしかないので勇気を振り絞って立ち上がり、手術室へ向かいました。手術室で迎えてくれた看護師さんが優しい笑顔で迎えてくれました。少し心が癒されましたね。手術室用のスリッパに履き替え、手術室に入るといつもの先生が出迎えてくれました。
「頑張りましょうね」
12:20:手術開始
まずは腰椎麻酔です。横向きで体を丸めて、腰のあたりに麻酔液を注入します。腰のあたりに(おそらく)消毒を塗られ、さらにスースーする塗り薬(麻酔?)を塗られました。「チクッとするけど腰を引かないで、そのまま我慢して」という指示があった直後、チクッときました。まぁ、我慢できる痛さでした。ただ、液体を2~3本入れていたので、1分くらい我慢していたと思います。
麻酔が済むとうつ伏せになり(スカイダイビングのような格好)、左右のお尻を思いっきり広げられ、ガムテープのようなものでお尻と手術台をしっかりと固定されました。肛門おっぴろげ、の状態です。そして、肛門を広げる器具(だと思う)を設置されました。この辺りまでは、何となく感覚が残っています。「あ~、これはやべえぞ」と思っていましたが、徐々に腰から下の感覚がなくなってきました。正座をすると足がしびれますよね、両足はそんな感じにボーっとしびれていました。でも、嫌な感覚です。
「それでは始めますね」
下半身は麻酔が効いていますが、上半身は自由に動くことができます。何をしているかは分かりませんが、手術道具のカチャカチャする音、先生と看護師さんの会話、手術室に流れるクラシックの音楽など、意識のある状態で手術は進みます。私の手術は、切開開放術(layopen)だったので、恐らくメスで切って、トンネルを広げて、広げた傷口の神経を焼いていたと思います。焦げ臭いにおいを嗅ぎました。先生が焼いた煙を手で払っていたのも何となく分かりました。早く終われ、と思っていましたが、40分間の手術となりました。予定では切開開放術(layopen)だけでしたが、肛門の奥に内痔核が3つあり、ALTA療法という注射による処置も同時に行われました。
13:00:手術終了
手術が終わると自分の力だけでは動けないので、看護婦さんの力を借りて手術台からストレッチャー(寝たまま移動できるベッド)に移動します。先生にお礼を言って、手術室から病室まで移動しました。イメージしていたよりもストレッチャーのスピードが早かったのを覚えています。病室に戻るともう一度看護婦さんの力を借りてベッドに移動します。このまま3時間は寝返りもうてず、飲み物も飲めず、じっと動かない時間をすごすことになりました。その間、同室の患者さんが手術に呼ばれ、40~50分の後にストレッチャーで帰ってきました。
下半身に麻酔が効いているので、麻酔が切れるまではまったく痛くありません。暇なので友人とLINEをしていました。だいたい3時間くらいで麻酔が切れると聞いていたのですが、私の場合は4時間くらい麻酔が効いていました。麻酔が切れるとどうなるか。点滴による痛み止めをしているのですが、仰向けに寝ていると肛門付近に小さな太陽がある(熱い感じ)感じがしました。痛いというより「熱い」感じがしました。それが次第に痛みに変わっていきます。
16:00:飲み物OK、寝がえりOK
手術から3時間が経過したので、飲み物がOKになりました。自宅から持参した「オーエスワン(OS-1)」を、痛み止めの点滴が体中に巡るように祈って飲みました。寝返りはまだ麻酔が効いていたので、ちょっと背中を浮かせてパジャマをずらすくらいにしておきました。また、明日の朝まで頭を持ち上げてはいけないということだったので大人しくしていました。
19:00:寝返り、痛むお尻
外が真っ暗になったころ、お尻がズキズキといたくなりました。同室の患者さんも「う~、う~」とうなっています。今振り返ると、手術日の夜、そして次の日までが痛いです。それを過ぎると痛みはだいぶ楽になります。しかし、夜は痛みで長い時間寝ることはできません。40分くらい寝たら起きて、40分くらい寝たら起きて、などを3回くらい繰り返したころで朝を迎えました。寝返りは大変でした。ちょっと肛門が動いただけで激痛が走るので、両手を使って腰を浮かし、ゆっくりと寝返りをしました。寝返りするのも肛門に力が入っているんだなーと肛門の大切さを身にしみて感じました。
4:00:尿瓶におしっこ
尿道カテーテルを使用する病院もあるようですが、私が入院した病院では基本的には尿瓶を使っての排尿でした。初めての尿瓶でしたが、上手にできたと思います。ただ、横向きになるのが大変でした。
6:00:起床
4:00ころから小腸・大腸がプクプク動き出し、オナラなのかウンチが出るのかトイレに行きたくなりました。しかし、手術の翌日なのでとても怖かったのを覚えています。ブッと出した時に傷口が広がって血が出たり、激痛が襲ってくるのではないかと恐怖でしたね。トイレでお尻のガーゼを取ってみると、予想通り血がベットリと付いていました。あーあ、と思いながら便座に座り、看護師さんから「いきんじゃダメ」と指示を受けたのでウンチが出るのを待ちました。結果的にウンチは出なかったのですが、ウォシュレットが地獄でした。一番弱い「弱」でも「イデデデデッ」となりました。携帯ウォシュレットは、本当にお勧めします。
7:00:朝食
具のないみそ汁と重湯が朝食でした。食べるとウンチをしなければいけないので食べたくなかったのですが、食べないと傷口が治らないということで頑張って食べました。冒頭にも書きましたが、富士山の見える窓際の部屋だったので、朝焼けの素晴らしい景色に癒されました。
手術当日と術後の経過はこの様な感じでした。
次は、「痔瘻の手術後」です。
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